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福岡地方裁判所 昭和62年(ワ)3383号 判決

原告

野中良治

上本実

田中恒基

稗田昭司

古賀留理子

鳥之海和彦

右原告ら訴訟代理人弁護士

市川俊司

谷川宮太郎

服部弘昭

石井将

被告

福岡大和倉庫株式会社

右代表者代表取締役

小川洋八郎

右訴訟代理人弁護士

山口定男

三浦啓作

奥田邦夫

主文

一  原告らが被告に対し、それぞれ雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告らに対し、昭和六三年一月以降毎月一〇日限りそれぞれ別紙賃金目録記載の金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告は、訴外雪印乳業株式会社(以下「雪印乳業」という。)福岡工場内において、乳飲料やアイスクリームなど乳製品の入出庫作業などの場内作業(以下「本件作業」という。)を請負うことを目的として昭和六〇年一〇月一八日に設立された株式会社で、昭和六一年四月一日からその業務を開始したが、それまでの間の本件作業は、訴外大成商運株式会社(以下「大成商運」という。)が請負っていた。

(二) 原告らは、いずれも、大成商運が本件作業を請負っていた当時に臨時従業員として雇用された者であるが、昭和六一年四月一日以降は、被告の臨時従業員として引き続き雇用され、それまでと同様に雪印乳業福岡工場内で本件作業に従事していた。

2  雇用契約の締結と雇止め

(一) 原告ら臨時従業員は、本件作業が大成商運から被告に引き継がれた後、昭和六一年一二月一日に、被告との間で次のような内容を含む「臨時従業員労働契約書」と題する書面(以下「本件雇用契約書」という。)を取り交して雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した。

雇用期間

昭和六一年一二月一日から昭和六二年一一月三〇日まで

就業場所

雪印乳業福岡工場内

就業時間

一日実働七時間三〇分、休憩時間は一時間とする。

時間外及び休日労働

業務上やむをえない場合には、労働基準法三六条に定めるところに従い時間外及び休日労働をさせる事がある。

(二) 被告は、原告ら各人に対し、本件雇用契約は一年間の有期限の契約であると主張し、昭和六二年一〇月二四日には本件雇用契約終了の予告通知を、同年一一月二七日には、同月三〇日をもって本件雇用契約を終了する旨の通知(以下「本件雇止め」という。)をそれぞれした上、右同日の経過をもって原告らと被告との本件雇用契約は終了したと主張して、同年一二月一日以降、原告らの就労を拒否し、賃金も支払わない。

3  本件雇用契約が更新を前提とするものであること

(一) しかしながら、原告らの雇用期間を昭和六一年一二月一日から昭和六二年一一月三〇日までとした本件雇用契約書の記載は形式的なものであって、本件雇用関係は、次のとおり、昭和六二年一二月一日以降も更新されて継続されることが当然の前提となっていた。

(1) 原告らが大成商運に雇用された時期は、原告古賀が昭和四八年九月、原告田中が昭和五六年五月、原告上本が昭和五六年六月、原告野中が昭和五九年二月、原告稗田が昭和五九年七月、原告鳥之海が昭和六〇年二月であって、原告らが大成商運に雇用されていた間は一度も人員削減がなされたこともなく、原告らを含む臨時従業員は、特に自ら希望して退職しない限り長期間にわたって継続して雇用されていた。

(2) しかるに、昭和六〇年秋頃、大成商運が本件作業の請負から撤退するとの話が明らかになってきたため、原告らの加盟していた総評・全国一般労働組合(現在、「連合・全国一般労働組合」と改称)の福岡地方本部、同本部福岡支部(以下、これらを「組合」と略称する。)及び同支部福岡大和分会(以下「分会」という。)の関係者らと大成商運との間で原告ら臨時従業員の雇用等について交渉が行われ、昭和六一年三月六日付けで、被告の親会社ともいうべき雪印乳業と大成商運は、組合に対し、原告らを含めた「全従業員を責任をもって雇用する。」旨を確約した(以下「三月六日付け確認」という。)。

(3) 本件作業の請負を大成商運から引き継いだ被告も、昭和六一年四月一日付けで、組合員の雇用、賃金及び労働条件に関して組合と協定を締結し(以下「四月一日付け協定」という。)、「正社員と臨時社員を含めて全員を大成商運の勤続年数を含めて同年四月一日より引き続き雇用する」旨約束した。さらに、被告は、昭和六一年一一月二一日付けで、組合と協定(以下「一一月二一日付け協定」という。)を締結し、同協定には「契約期間満了後の雇用については、双方に支障がない限り契約更新を前提に組合と協議する。」との条項があるが、この条項は、従来、臨時従業員については、雇用期間の定めがなく、賃金をはじめもろもろの労働条件も正社員とほとんど変わらない内容で長期にわたり雇用されてきた経緯があること、そのため、当時、原告ら臨時従業員は長期間継続して被告に勤務したいとの希望を持っていたことを、被告と組合の共通の前提とした上で、臨時従業員について、期間の定めのない契約から期間の定めのある契約に改めるに際しては、その雇用期間が満了しても、原告ら臨時従業員が希望すれば原則として雇用契約を更新することを明らかにするために置かれたものである。

(4) そして、原告らは、右一一月二一日付けの協定を前提として、その一〇日後に、本件雇用契約を締結した。

(二) したがって、このような契約更新を前提とする本件雇用契約を一方的に打ち切って雇止めを行うことは許されるものではなく、原告らは、昭和六二年一二月一日以降も被告の臨時従業員としての雇用契約上の地位を有する。

4  原告らの賃金額

原告らの賃金は、毎月末日締切で翌月一〇日払いであるが、昭和六二年一〇月三一日以前の三か月間の賃金額を基礎として算出した原告ら各人の一か月当りの平均賃金額は、それぞれ別紙賃金目録(略)記載のとおりである(ただし、同年一一月は労使紛争等により原告らの勤務日数が減少し、賃金額もそれ以前とは異なっているので、同月分は算定の基礎から除外した。)。

5  よって、原告らは、被告に対し、それぞれ、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、昭和六三年一月以降毎月一〇日限り、その前月分の賃金として別紙賃金目録記載の金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の(一)の本文のうち、本件雇用契約書上雇用期間が昭和六一年一二月一日から昭和六二年一一月三〇日と記載されていること、同(一)の(1)のうち、各原告がその主張の頃大成商運に雇用されたこと、同(2)のうち、三月六日付け確認がなされたこと、同(3)のうち、四月一日付け協定及び一一月二一日付け協定が締結されたこと、一一月二一日付け協定には、「契約期間満了後の雇用については、双方に支障がない限り契約更新を前提に組合と協議する。」旨の条項が含まれていること、以上の各事実は認めるが、同3の(一)及び(二)のその余の事実は不知ないし争う。

ちなみに、右条項が定められた経緯は次のとおりであって、当然に本件雇用契約が更新されることを前提としたものではない。すなわち、当初、組合から「合意がない限り契約更新を前提に協議する」旨の案が示されていたが、被告は、それでは契約当事者双方が合意しない限り、どのような支障があっても一方的に雇止めをすることはできないことになりかねないと考え、右組合の申し出を断った。そして、その後の双方の協議の結果、「支障がない限り」というものであれば、契約当事者双方に公平に主体性があり、どちらか一方に支障が生じた場合、それが被告側であっても原告側であっても、契約更新の前提が崩れることになるとの理解から、被告としてもこれを受け入れたものが右の一一月二一日付け協定の文言であり、右は本件雇用契約が当然に更新されることを前提としたものではない。

3  同4のうち、賃金が毎月末日締切で翌月一〇日払いであることは認め、その余の事実は否認する。

三  被告の主張

本件雇用契約は、右のとおり、当然に更新されることを予定したものではないが、仮に、本件雇用契約が、当然に更新されるものであったり、ある程度の継続が期待されていたものであったとしても、被告には、次に述べるとおり、雇止めをしなければならないやむを得ない事情がある。

1  被告が本件作業を請負っている雪印乳業福岡工場では、昭和六二年二月に、これまで人力で行っていた市乳冷蔵庫(市販用牛乳を保管する冷蔵庫)内での製品積付け作業にパレタイザーと呼ばれる自動積付機を設置するとともにアイスクリーム冷蔵庫内の作業設備を改善することを決定し、同年秋にこれを実施したことから、一〇名分の作業がなくなり、一〇名の余剰人員が生じた。

すなわち、

(一) 市乳冷蔵庫での入庫作業に関しては、従来、六つのコンベアーラインがあり、スラントライン・乳酸菌ラインを除く四つのラインでは八名の従業員が三〇分交代で業務に従事していたが、昭和六二年一〇月、この四ラインに四基のパレタイザーが設置されたため、右作業については、パレタイザーの監視・操作等を行う従業員が二名いれば足りることとなり、六名の余剰人員が生じた。

(二) アイスクリーム冷蔵庫での入出庫作業に関しては、従来、マイナス三〇度の冷蔵庫(本庫)内で一ケースずつ手作業で出荷されていたが、同じく昭和六二年一〇月から、冷蔵庫を入庫予備室、本庫、出荷予備室に仕切った上、マイナス五度ないし一五度の入庫予備室・出荷予備室からフォークリフトで大量に入・出荷する方法に代わった。このような作業方法の改善により、それまで一二名で行っていた作業を八名で行うことができるようになり、四名の余剰人員が生じた。

2  雪印乳業が導入した右パレタイザーは、乳業界はもとより他の業界でも二〇年も前から導入されている機械で、福岡工場以外の雪印乳業の主要工場には既に設置されているものであるため、被告がその導入を拒むことはできなかった。また、アイスクリーム冷蔵庫内の設備改善計画は、従業員の極寒作業時間を減らすだけではなく、出荷時間を短縮して配送車両の回転効率を高める等、改善効果が著しいものであるため、被告が右改善を拒むこともできなかった。

3  しかも、右の各措置によって余剰となった一〇名の人員は、次の理由により配転の余地がなかった。

(一) 被告が雪印乳業福岡工場で請負っていた職域は、市乳冷蔵庫・アイスクリーム冷蔵庫での作業の他にはLL(ロング・ライフ牛乳)倉庫での作業(三名)と被服・清掃業務(二名)だけであったが、清掃業務の一名を除く他は、すべて正社員をこれに充てていて、これらの者を臨時従業員に先立って解雇することはできないから、本件雇止めの対象者である臨時従業員を他に配転する余地はなかった。

(二) ちなみに、被告は、昭和六一年四月に本件作業を引き継いだ直後に、余剰人員が出た場合の職場を確保するため、雪印乳業と新職場確保の交渉を開始し、その結果、被服の管理や場内清掃の業務を獲得した。そして、引き続いて、空瓶などの検収、洗浄、リフト作業の業務を請負わせてもらえるという確約を雪印乳業から得た。そこで、被告は、組合に対して、これらの新しい作業に就労してくれるよう提案したが、組合は「自分たちは今やっている牛乳やアイスクリームの冷蔵庫の仕事をするために大成に入ったのであって、空瓶等の仕事をするために入ったのではない。そんな仕事はできない。」などと主張して会社の提案を拒否したため、結局、被告が空瓶の検収などの作業を請負うことはできなかった。そして、そのような経緯があったため、昭和六二年二月初旬、雪印乳業からパレタイザーの設置及びアイスクリーム冷蔵庫の設備改善の提案がなされた際、被告は雪印乳業に対し、代替職場の提供を求めて強く折衝したが、雪印乳業から断わられたのであって、このような結果は、組合の責任である。

4  また、被告の経営は、雪印乳業から支払われる委託料(作業料金)で成り立っており、被告が業務を開始した昭和六一年四月一日から二か月間の営業実績を基にして昭和六一年度の営業収支を検討したところ、大幅な赤字が予測された。しかし、当時、被告と雪印乳業との作業料金は、大成商運時代に定められた昭和六〇年度の契約料金をベースにすることで合意していて、右料金は、雪印乳業の全国の工場でも最高の委託作業料金であったため、赤字解消のため雪印乳業に対して作業料金の改定を求めることは困難であった。

そのうえ、雪印乳業は、前記1の合理化後は本件作業に必要な人員は一〇名削減できるとして、被告に対し、委託料金を年間で金二七〇〇万円減額する旨通告してきたので、被告の営業収支は昭和六二年度においても大幅な赤字になることが予測された。

5  ところで、被告は、本件雇止め当時及びその後においてもアルバイトの従業員(以下「アルバイト」という。)を採用しているが、被告がアルバイトを雇用した理由は、次のとおりであり、本件雇止めと連動するものではない。

(一) まず、被告の業務は季節や天候異変による変動が大きいため、繁閑に応じた人員対応策が必要である。牛乳やアイスクリームなどのような商品を扱う物流業者は、通常、閑散期にも必要な人員に見合う社員を確保した上、繁忙期には、その程度に応じてアルバイトを補充してこれに対応しており、雪印乳業の工場でも同様である。したがって、被告が経営を改善するためには、他に良策がない限り、どの企業も行っている繁閑対応策を採用するのが当然である。季節的変動などに対応するアルバイトの雇用と通年を前提とする臨時従業員の雇用とは、それぞれの果たす機能が異なるから、同一に論ずることはできず、被告がアルバイトの雇用を取り止めることはできない。

(二) 次に、被告会社は、雪印乳業福岡工場で牛乳やアイスクリームなどの入出庫作業を請負っているものであるから、ストライキがなされて担当業務が麻痺させられた場合、雪印乳業福岡工場の製造及び出荷機能にまで重大な影響を及ぼし、牛乳販売店はもとより、学校、病院、レストラン、喫茶店等へ雪印の乳製品が供給されないこととなって、これらの者に多大の迷惑をかけるばかりか、社会問題ともなって、被告の経営存続が脅かされることになるところ、組合は、昭和六二年八月七日、五分前の予告でストライキに突入するなどしており、被告は、企業防衛上、企業対応要員(紛争中の対応要員)としてアルバイトを雇用する必要があった。

(三) また、組合員には欠勤者が多いうえ、休暇当日になってその旨を連絡してくるため、会社がこれに対応するにはアルバイトを雇用することが必要であった。

(四) さらに、組合員は、アルバイトに比して、休憩や待機時間が圧倒的に長く、朝礼や職場で質問攻めをしたり、一々メモを取る等して仕事を遅らせ、運送会社や牛乳販売店に毎日のように迷惑をかけたため、被告は、繁閑調整要員とは別に、遅延防止対策上、アルバイトを以前にも増して雇用しなければならなかった。

(五) したがって、被告が昭和六二年一二月一日以降もアルバイトを雇用したことをもって、本件雇止めの必要性を否定することにはならない。

6  さらに、被告は、三月六日付けの確認の趣旨を尊重しながら赤字を解消する方策として、昭和六一年四月一六日に開催された第一回の団体交渉以来、幾度も次のような提案を行い、本件雇止め回避のために誠意を尽した。

(一) まず、被告は、組合に対し、雪印乳業から右3の(二)に記載のような新規業務を請負い、会社の事業範囲を拡大して増収を図るが、従業員は増員せず、在籍している従業員をもって右新規業務に充てるという案を提案したが、組合がこれを拒否したため、昭和六一年六月一八日には、組合に対し、経営計画書を提示して、これに対する協議を申し入れた。

(二) 被告が組合に対して右提示した経営計画の理由及びその要旨は、次のとおりである。すなわち、昭和六一年度の収支は大幅な赤字が予想されるが、この赤字は、作業料金は全国一高く、労働生産性は全国一低いという大成商運時代の経営体質に起因するものであって、被告の経営が拙劣なために生じたものではなく、また、被告の営業開始のために生じた初年度の一過性の赤字でもないということを前提に、希望退職者の募集、勤務割表(出勤予定表)による勤務の実施、臨時従業員の有期雇用契約の実施など六項目の具体的な経営改善策を提案した。

(三) 被告は、その後も組合と協議を重ねて一一月二一日付けの協定を締結したほか、業務を開始してから八か月間に、組合と三二回(延べ一〇三時間)に及ぶ協議を実施し、十分に誠意を尽くした。

(四) 被告は、雪印乳業の計画した入出庫作業の機械化や冷蔵庫設備の改善等に対応して、昭和六二年五月八日に人員削減の予告ほか五項目の新たな提案をしたが、組合は、会社案の撤回を要求するばかりで、内容に立ち入っての協議に応じようとはしなかった。そこで、被告は、被告の提案に固執するものではないとして、組合に代案があれば示すよう求めたが、組合は何の代案も提示しないまま、ただ被告に対してその提案を撤回するよう要求して、ストライキを含む争議行為を頻繁かつ執拗に実施した。

(五) 被告は、昭和六二年五月八日の提案以来、七回の団体交渉において経営改善につき組合と真剣に協議しようと努力したが、組合の姿勢が右のようなものであったため、これ以上協議を続けても解決に向けての進展は期待できないと判断し、同年九月一八日付けの通告書をもって、同年一〇月一日より、それまでに被告と組合とで締結した協定や覚書、被告の就業規則等により労働条件等を決定し、会社を運営する旨を組合に通告したのである。

7  したがって、被告のした本件雇止めについては、実体的にも手続的にもやむを得ない事情があるものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張の冒頭部分は争う。

2  同1のうち、パレタイザーの導入及び冷蔵庫内の設備等の改善によって一〇名の余剰人員が生じたとの点は争うが、その余の事実は認める。ちなみに、パレタイザー導入後の実際の要員配置をみても、余剰人員は四名にすぎない。これも当時、正社員の定年退職や中途退職者が数名いたので解消され、臨時従業員を削減する必要はなかった。人員削減が必要であるとしながら大量のアルバイトを雇用していることは、明らかに矛盾する。

3  同2は争う。

4  同3のうち、被告が臨時従業員に対して、空瓶などの検収、洗浄、リフト作業などを提示したことは認めるが、本件雇止めの対象となる臨時従業員を他に配転する余地はなかったとの点を含むその余の事実は争う。

5  同4のうち、被告の経営が雪印乳業から支払われる委託料(作業料金)で成り立っていること、昭和六一年度の作業料金が大成商運当時の契約料金をベースに決定されたことは認めるが、その余の事実は不知ないし争う。

なお、雪印乳業から支払われる委託料は、被告と雪印乳業との話合いで決定され、臨時従業員を雇用している場合には、それに見合う委託料が雪印乳業から支払われ、これをアルバイトに代替した場合には、アルバイト料に見合う委託料しか支払われないというシステムが取られているようである。

すなわち、雪印乳業から被告に支払われる委託料は、被告の支出の状況に対応して被告に赤字が出ないよう柔軟に支払われるシステムとなっているから、被告は、赤字経営ではなかったのである。

しかも、通常、会社の業績が悪い場合には、使用者側はその実情を労使交渉の場で明らかにして、組合側に譲歩を求めるものであるが、被告は、組合の再三の要求に対しても、経営状態や経営内容について何一つ明らかにしなかったばかりか、決算書を問題とする余地は全くないとして、関係書類の提出を拒絶した。

結局、被告には差し迫った赤字解消の必要性があったわけではなく、本件雇止めは、収益増大を目指して行われたものである。

6  同5のうち、被告が本件雇止めをした昭和六二年一二月一日以降もアルバイトを雇用していることは認めるが、その余の点は不知ないし争う。

ちなみに、大成商運当時には、アルバイトは夏と冬にそれぞれ数名程度いただけであったが、被告に代ってからは、職域が大幅に拡大したわけでもないのにその数が増加し、原告ら臨時従業員の担当していた作業を代替し、雇用期間も長期化している。すなわち、被告は、本件雇止めの時期を挾んで昭和六二年三月から平成元年九月までの間に、合計一三回もアルバイトの求人広告をして、本件雇止めをした昭和六二年一一月には合計一四名、同年一二月には合計一五名のアルバイトを雇用して、その後も九名ないし二六名(平均二〇名位)のアルバイトを雇用しているが(但し、機械の工事で仕事を休んだ昭和六三年一月だけが例外で一名)、右アルバイトの大多数が一年以上被告の下で働いており、右アルバイトが原告ら臨時従業員を代替して勤務しているのが実態である。

しかも、アルバイトが雇用を打ち切られた原告ら臨時従業員と同一の作業に配置されていることは、被告の求人広告に仕事の内容として「雪印乳業製品の入出庫作業」とされていることからも明らかである。

7  同6のうち、昭和六一年四月一六日に被告と組合とで団体交渉が開催されたこと、同年六月一八日に被告が組合に対し、被告の主張するような内容の経営計画書を提示したこと、被告と組合との間で一一月二一日付け協定が締結されたこと、昭和六二年五月八日に被告が新たな人員削減等を提案したこと、以上の事実は認めるが、組合が真剣に協議に応じなかったなどその余の事実は争う。

昭和六一年六月一八日に被告が打ち出した合理化案は、前記四月一日付け協定に違反するもので、背信的な合理化提案であったが、組合側は最大限の譲歩を行い、一一月二一日付け協定を締結し、右合意に基づいて若干の労働条件の切り下げや希望退職者の募集(募集人員一〇名)を認め、希望退職者一〇名の応募者も出て所期の目的を達した。この当時、臨時従業員は一九名いたが、希望退職に応じた者が九名出るなどしたため、残った臨時従業員は一〇名のみとなった。さらに、被告は、その半年後の昭和六二年五月二八日にもまた合理化提案を行い、原告ら臨時従業員全員の雇止めを打ち出した。

これに対して、組合は、アルバイトを一五名ないし二〇名も大量に雇入れながら、他方で一〇名もの臨時従業員全員の雇止めを実施するのはきわめて不合理であり、一一月二一日付け協定に違反することを主張したが、被告は当初の方針に従って本件雇止めを強行実施したのであって、第一回目の人員削減の妥結のわずか半年後に第二回目の大幅な人員削減を提案し実施するのは、組合及び原告らに対する背信行為であり、信義に反するものである。

五  原告の主張

(不当労働行為)

仮に、本件雇用契約が当然に更新されるものではなかったとしても、本件雇用契約は更新される蓋然性が高いものとして締結され、現に、昭和六二年一二月一日以降も雇用契約を更新して原告らを継続して雇用することが可能であったのに、被告は、原告らの組合活動を嫌悪して雇用契約を更新しなかったものであるから、本件雇止めは不当労働行為に該当する無効なものである。

1 原告らは、被告の現業関係の従業員三八名(正社員三一名、臨時従業員七名)で組織する前記分会に所属する組合員である。

2 大成商運当時も、従業員の大多数が分会に加入していたが労使関係は安定し、逐次労働条件の改善が図られてきた。しかし、昭和六一年、被告に経営が移ってからは労使関係が一変し、被告は組合に対し、次々に大規模な人員削減や労働強化の提案を突きつけてきた。

(一) 本件の請負会社切替は、被告と雪印乳業が結託し、大成商運の労務対策をなまぬるいとして、被告に経営を交替させ、労働強化、組合活動の押さえ込みなどを行い、収益増進を図る目的でなされたものである。

(二) 被告は、組合攻撃の一つとして、昭和六二年夏季一時金問題と本件雇止め問題との一括解決を主張して誠実な団体交渉を拒否し、右一時金を未払いのまま引き延ばすなど不誠実な態度を採り続けた。そこで、組合員は、昭和六二年一一月三〇日、福岡県地方労働委員会に対して誠実団交開催の斡旋を申し立て、福岡県地方労働委員会から被告に対し、誠実な団体交渉を開催するようにとの斡旋案が出されている。

3 また、被告は、本件雇止めに関する交渉においても、それまでの希望退職の募集へ協力してきた組合側の誠意を裏切り、雇止めを防ぐための組合側の対案を無視し、組合否定といえる実質団交拒否の不当労働行為を行い、一方的に本件雇止めを強行した。

4 右のとおり、本件雇止めは、原告ら臨時従業員の大多数(一〇名中七名)が組合員であることから、原告ら組合員を職場から排除するとともに、組合組織の弱体化を図り、一層の労働強化を推進する目的をもって、雇用契約の期間満了を口実にして、アルバイトまで雇い入れてなされたものであり、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であるから違法無効である。

六  原告の主張に対する認否

1  原告の主張の冒頭部分は否認ないし争う。

2  同1の事実は認める。

3  同2のうち、昭和六二年一一月三〇日に組合員らが福岡県地方労働委員会に対して誠実団交開催の斡旋を申し立てたことは認めるが、その余の事実は否認ないし争う。

4  同3及び4の事実は否認ないし争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(当事者)及び2(雇用契約の締結と雇止め)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件雇用契約が更新を前提とするものであるか否か(同3)について判断する。

1  (証拠略)の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、全国各地の雪印乳業の工場内で乳飲料やアイスクリームなどの乳製品の入出庫作業などの場内作業を請負っている大和倉庫作業株式会社(以下「大和作業」という。)の傘下にある会社で、福岡市南区五十川所在の雪印乳業福岡工場内の同種作業を請負うことを目的として昭和六〇年一〇月一八日に設立され、昭和六一年四月一日から、それまで福岡工場内の同種作業を請負っていた大成商運に代わって、その業務を開始した。

他方、原告古賀は昭和四八年九月一六日、同田中は昭和五六年五月四日、同上本は同年六月一五日、同野中は昭和五九年二月(日付は不明)、同稗田は同年七月一日、同鳥之海は昭和六〇年二月八日に大成商運に臨時従業員として雇用され、福岡工場内で本件作業に従事し、大成商運に代わって被告がこれを請負うようになった昭和六一年四月一日以降は、引き続き被告の臨時従業員(大成商運時代から、社内では「長期臨時従業員」と呼ばれることがあった。)として本件作業に従事していた者である。

(二)  被告が大成商運に代わって福岡工場での本件作業を請負うこととなった経緯は、次のとおりである。

(1) 雪印乳業福岡工場での本件作業は、昭和四一年七月頃から大成商運が請負っていたが、昭和六〇年夏頃、雪印乳業から大和作業に対して、大成商運が福岡工場内の請負業務から手を引くことになったので、その後の業務を請負わないかとの意向打診があった。

(2) 大和作業は、全国各地の雪印乳業の工場内で同種の作業を請負っていて雪印乳業と緊密な関係にあったところから、これを引き受けることとして、同年八月末、雪印乳業に対し、詳細な条件等を確定しないままでこれを受諾する旨回答した。そして、同年一〇月一八日、大和作業は、当時、神戸営業所長をしていた小川洋八郎を代表取締役社長、大和作業の社長である加地總四郎と大和作業の系列会社である大和食販株式会社の社長である花原信好とを取締役、大和作業の社員である坪井正身を監査役として、被告を設立した。

(3) 被告は、右のような陣容で設立され、実際の常勤の役員は社長の小川のみであったが、会社の業務が軌道に乗るまでの間は、非常勤取締役ながら花原が労務面を担当することとして、小川と花原とを中心にして雪印乳業と業務引受のための具体的な条件等を検討することとなった。

(三)  他方、昭和六〇年八月頃に雪印乳業と大成商運との契約破棄問題の情報を入手した組合は、雇用継続への不安や労働条件の変更等を懸念して、争議行為や大成商運社長宅周辺での情宣活動などを交えながら、大成商運との間に、次のような交渉、協定等を重ねた。

(1) 同年八月二四日には、同六一年四月以降も引き続き、大成商運が雪印乳業との契約を継続し、雇用している労働者を雇用する旨の協定を締結した。

(2) 同六〇年八月二八日には、大成商運の社長長沢鉄雄と常務取締役長沢哲夫が今後とも責任をもって経営を行う旨の協定を締結した。

(3) 同年九月三日には、大成商運は組合に対し、雪印乳業との契約を破棄する考えはなく、今後とも雪印乳業との契約を更新していくことを誓約した。

(4) 同年一〇月一日には、今回の契約解除問題は雪印乳業が一方的に通告してきたものであることを労使間で確認した上、大成商運が雪印乳業との契約を解消しない旨の協定を締結した。

(5) 同年一二月二八日には、大成商運は、〈1〉雪印乳業から契約解消を前提とした条件が提示されても組合との間で確認している雇用条件等が全て同意されない限り受け入れない、〈2〉雪印乳業と右雇用条件等につき合意に至らず昭和六二年四月以降契約を解除された場合には、契約の継続に向けて組合と一体となり、裁判等あらゆる面で共同行動を行う、〈3〉雪印乳業との契約が解消された場合には、社長の長沢はその私財を処分してでも、臨時社員を含む全従業員について、その雇用、賃金、労働条件を保証する旨の協定を締結した。

(6) 昭和六一年一月一一日には、〈1〉大成商運と雪印乳業との契約解消の条件として、それまでに大成商運と組合との間で締結された協定の内容及び労使慣行を遵守し、引き継ぐことを雪印乳業、大成商運及び組合の三者で確認した上、雪印乳業の責任において、大成商運に代わる新会社においても、臨時従業員を含む大成商運の全従業員が引き続き福岡工場で業務を行うことを文書で協定する、〈2〉この点が確約されない限り、大成商運は四月以降も雪印乳業と契約を継続する旨の協定を締結した。

(7) さらに、昭和六一年一月一四日には、これまでに大成商運と組合との間で協議し、合意されて実施されている賃金、労働条件、慣行、慣例などの内容を詳細に確認するとともに、社員四一名、臨時工二一名、嘱託一名について勤続年数等現行どおりの身分を引き継ぐ旨の協定が締結された。

(四)  この間、被告の経営に当る小川や花原が直後に組合や大成商運の幹部と交渉を持ったことはなく、被告はもっぱら雪印乳業との間で業務引受の具体的条件を検討していたが、昭和六一年初め頃、雪印乳業から被告に対し、大成商運の業務を被告が包括的に承継してほしい旨の依頼があった。そこで、花原などが右一月一四日付け協定を入手してこれを検討したところ、同協定には、私傷病でも一〇〇パーセントの休業補償を支給する件、一時金の査定に関する件、慶弔の場合に特別有給休暇を付与する件、やりじまいの慣行(所定の終業時間前であっても担当の仕事が終了すれば退社できるという慣行)に関する件、庫内作業は三〇分交代でするという件、遅出の時差手当に関する件、新規事業の採用に関する件などが含まれており、これをそのまま包括的に承継したのでは経営が困難となると判断して、雪印乳業に対し、被告は大成商運とは関係のない形で新規に業務を請負いたい旨を申し入れた。

これに対して、話をまとめたいとする雪印乳業は、同年二月頃、雪印乳業、大成商運及び組合との間で次のような内容の確認を取り交したいとして、その確認事項の原案を被告に示した。その内容は、

「(1) 雪印乳業は、大成商運と契約解消し、新たに契約する大成商運の業務を引継ぐ新会社に、現在大成商運が雪印乳業福岡工場の業務に従事させている全従業員を、責任をもって雇用させる。

(2) 雪印乳業は、一月一四日付け協定の通り、現在、大成商運に雇用されている全従業員(含む臨時)の、賃金・労働条件・慣行・慣例等を大成商運に代わる新会社にすべて引き継がせるため、新会社と組合が速やかに協定を交わし、労使関係が正常に運営されるよう全責任を持つ。

(3) 雪印乳業が新たに契約する新会社においては、現在、大成商運に雇用される右の全従業員(含む臨時)を引き継いで雇用し、雪印乳業福岡工場において現行の業務を引き続き行うものとする。」

というものであった。

しかし、花原ら被告経営陣は、右のような条項では、大成商運に雇用されている全従業員の賃金・労働条件・慣行・慣例等を大成商運に代わる新会社(被告)がすべて引き継ぐことになるのではないかと懸念し、雪印乳業に対してその旨を伝えた。

(五)  そして、雪印乳業は、被告の右意向をくんで、組合と交渉し、昭和六一年三月六日、大成商運及び組合の三者間で、

「(1) 雪印乳業は、大成商運と契約解除し、新たに契約する大成商運の業務を引き継ぐ新会社に、現在大成商運が雪印乳業福岡工場の業務に従事させている全従業員を責任をもって雇用させる。

(2) 雪印乳業は、一月一四日付け協定の内容が大成商運における現行の労使協定及び労働条件であることを確認する。

(3) 右(1)、(2)の確認を含め雪印乳業は、新会社と組合及び組合員が速やかに労働契約の締結及び労使関係の成立を行い、昭和六一年四月一日より新会社が雪印乳業福岡工場において大成商運が行っていた現行の業務を引き続き行うための引継ぎが完了するよう責任を持つ。」

との確認書を取り交わした。

(六)  そして、右三月六日の確認がなされた直後の同月八日、雪印乳業の仲立ちで大成商運の経営陣と被告の経営陣が初めて顔を合わせたが、形式的な挨拶程度の話にとどまり、両者間で個別具体的な作業引継ぎに関する話はなされなかった。

また、大成商運から被告への業務の引継ぎをわずか三日後にひかえた同月二九日、被告の経営陣と、福岡県評の関係者、全国一般労働組合の委員長、社青同の委員長及び分会の役員とが初会合を持ち、従業員は臨時従業員も含めて全員雇用し、賃金水準を維持するほか、退職金や年次有給休暇を算定するための勤続年数は会社が代わっても引き継ぐことや組合・分会等は従前通り認めることなどを大筋で合意した。しかし、被告が業務を開始する四月一日以降の具体的な労働条件の細部については、業務開始までにわずか三日間しか残されていないことから、大体六か月程度の期間を目途に労使で協議して決定するものとし、それまでの間は、大成商運と組合との間で決定された一月一四日付け協定で定められた労働条件によることとされた。そして、同年三月三一日の夕方には、雪印乳業福岡工場内のPR室において、小川ら被告の幹部と原告らを含む従業員との初会合が持たれ、被告から、希望する従業員全員を翌四月一日から被告において雇用することなどについて簡単な説明がなされた後、正社員に対しては被告に採用する旨の辞令が交付され、原告ら臨時従業員については、被告との間で一応雇用期間の定めのない雇用契約が締結されたが、正社員を含む従業員らの具体的な労働条件は確定されないままであった。

(七)  その後右労働条件に関する被告と組合との間の協議が行われたが、その経緯は次のとおりである。

(1) まず、昭和六一年四月七日には、被告から就業規則案が提示されたが、組合は、同月一六日、右就業規則案には不同意である旨の意見を出したため、結局、賃金などの労働条件等については、会社側から小川や花原ら五名位、組合側から組合と分会の幹部ら六名位が出席する労使協議会や団体交渉で協議した結果、被告と組合は、同年五月一三日、前記三月六日付け確認事項を前提に、「会社は、同年三月三一日まで大成商運に勤務した〈1〉社員外山哲以下四一名、〈2〉臨時工谷口堀生以下二一名及び上本隆二を、大成商運の勤務年数も含めて、同年四月一日より引き続き雇用する」とした上、賃金、就業時間、定年、年次有給休暇、労働災害補償、一時金、メーデーの特別有給休暇などの点について、同年四月一日付けの協定を締結した。

(2) ところが、同年六月一八日には、被告は、組合に対し、雪印乳業の各地の工場の作業効率等を比較した場合、福岡の実態は、労働生産性が全国一飛びぬけて低く、作業料金も全国一高いとの前提に立った「経営計画書」と題する書面を交付して、〈1〉一四名の希望退職者の募集、〈2〉新シフトによる作業の実施(配置・人員及び稼動・休憩時間等の変更)、〈3〉勤務割表(出勤予定表)による勤務の実施、〈4〉タイムカード打刻による出退管理、〈5〉給与締切日及び支払日の変更、〈6〉臨時従業員の有期限雇用契約の実施、〈7〉一月一四日付け協定の会社提示案による実施などの経営改革の具体策を提案したが、組合は、人員整理と労働条件の切下げであるとして、これに強く反発した。

(3) その後、両者間で一〇数回に及ぶ協議・交渉を重ねたにもかかわらず進展がなく、同年九月二〇日に至り、被告は、組合に対して、話合いの打切りと経営計画書の実施を通告した。

(4) そこで、組合は、これに激しく反撥してストライキを構える事態に発展したが、福岡県評の大森と福岡経営者協会の吉田との仲介により、被告が妥協の姿勢を示したため、組合もストライキを中止し、双方が協議を再開した結果、同年一一月二一日、〈1〉正社員及び長期臨時従業員から希望退職者一〇名を募集すること、希望退職者が一〇名に達したときは再募集は行わないこと、希望退職者が右を超えた場合は、その超えた人員は補充すること、〈2〉新シフトによる勤務体制への移行、〈3〉賃金引上げ(社員は一律三五〇〇円、長期臨時従業員は一律二五〇〇円の引上げを四月分に遡って実施すること)、〈4〉定年を五八歳に引上げること等について労使間で合意に達したほか、「会社は、長期臨時従業員の有期限雇用契約を次のとおり定める。〈1〉六〇歳未満の者については、一年間。〈2〉六〇歳以上の者については、六ヶ月間。〈3〉但し、契約期間満了後の雇用については、双方に支障がない限り契約更新を前提に組合と協議する。〈4〉契約期間満了後引き続き更新された者については、連続した雇用期間とみなし、年次有給休暇は引き続き適用する。〈5〉長期臨時従業員については、特別に定めたものの他、社員に対する条件を適用する。」との協定が成立した。

原告ら臨時従業員についての有期限の雇用契約の締結問題は、被告が前記六月一八日付けの「経営計画書」でこれを提案して以来、労使間の重要問題の一つとなっていたもので、組合からは、「双方に合意がない限り」とすることが提案されたのに対して、被告が難色を示したので右〈3〉のとおり「双方に支障がない限り」という文言に落ち着いたものである。

(八)  右のような交渉や合意を経た上、同年一二月一日、原告ら臨時従業員と被告との間で、雇用期間を同日から翌六二年一一月三〇日までの一年間とする第二回目の雇用契約が締結されたが、その際、被告の幹部職員で、雪印乳業福岡工場内の本件作業の責任者(所長)である西脇は、原告古賀に対し、「これ(有期限雇用契約)はただ形式的なもので、これを盾にして首にすることはしません。」と断言していたほか、花原や西脇が他の原告らにも同様の説明をしたことから、原告らは、期間満了後も当然に更新され継続して雇用されるものと考えて右契約を締結した。

(九)  その後、被告から提案のあった希望退職者一〇名の募集が実施され、翌六二年三月三一日までにようやく目標が達成された。

しかし被告の経営者は、右希望退職者一〇各の目標が達成される以前にすでに雪印乳業との間に、パレタイザーの導入等による合理化により、さらに原告ら臨時従業員一〇名の人員削減を行うことを合意していた(詳細は後記三の1参照)。

そして、被告は組合に対し、右希望退職者募集の目標達成後である同年四月二二日、団体交渉の席で右合理化について説明し、同年五月八日には、正式に書面で右の人員削減を行いたいとの申入れをした。ここにおいて、原告らを含む組合員の態度が硬化して労使協議が調わず、争議が多発することとなった。

(一〇)  このような状況の下で、被告は、原告ら臨時従業員に対し、同年一〇月二四日には本件雇用契約終了の予告通知を、同年一一月二七日には同月三〇日の経過をもって本件雇用契約は終了する旨の通知をした上、右同日限り本件雇用契約は終了したとして、同年一二月一日以降今日まで、原告ら臨時従業員の就労を認めず、賃金も支払わない。

ちなみに、右雇止めまでの各原告らの勤続年数は、大成商運時代のものを通算して、原告古賀が一四年二か月、同田中が六年六か月、同上本が六年五か月、同野中が三年九か月、同稗田が三年四か月、同鳥之海が二年九か月である。

2  右に認定したところによれば、原告らは、その期間に長短の違いはあるものの、被告が雪印乳業福岡工場での本件作業を引き継ぐ以前の大成商運時代に臨時従業員として雇用されたものの、大成商運時代には明確な雇用期間の定めもなく、「長期臨時従業員」と呼ばれて、自ら希望して退職する以外は長期間にわたって当然に継続して雇用されるものとされ、本件作業の内容はもとより賃金や有給休暇などの待遇面においても正社員と大筋において異ならない取り扱いを受けていたことから、本件請負業務が大成商運から被告に移行される際にも、原告ら臨時従業員の雇用継続問題が労使間の主要な検討事項の一つとなり、大成商運は、組合に対して原告ら臨時従業員の雇用確保を何度も誓約していただけでなく、これを実現すべく雪印乳業福岡工場の責任者らにも働きかけて、雪印乳業と大成商運と組合の三者間では、新会社へ移行した後も臨時従業員を継続して雇用することが確認されていたところ、本件請負業務を引き継いだ被告は、原告ら臨時従業員を長期間の雇用とすることには必ずしも積極的ではなかったが、被告が雪印乳業福岡工場内の本件作業を請負うために親会社とも言うべき大和作業の関係者によって設立された特殊な会社で、雪印乳業の意向に逆うことは困難であったことなどから、結局、昭和六一年三月三一日に、正社員には採用辞令を交付するとともに、原告ら臨時従業員とは、一応、雇用期間を定めることなく雇用契約を締結して、同年四月一日以降は被告の従業員として右雪印乳業福岡工場で本件作業に従事させた後、さらに、被告と組合とで、人員削減問題(希望退職者の募集)その他の経営改善問題と合わせて、交渉を重ねた結果、同年一一月二一日には、組合は希望退職者一〇名の募集に同意するが、右が一〇名に達したときは再募集は行わず、一〇名を超えた場合は一〇名を超える人員分を補充するとの被告の約束のもとに、原告ら臨時従業員の有期限雇用契約問題について、右両者間で、「双方に支障がない限り契約期間満了後も契約更新を前提に協議する」との協定が締結され、これを前提として、同年一二月一日に、原告ら臨時従業員と被告との間において、雇用期間を同日から翌六二年一一月三〇日までの一年間とする有期限の本件雇用契約に改められたものである。

したがって、本件雇用契約が期間の定めのないものから期間の定めのあるものに改められている以上、これを期間の定めのない雇用契約であると解することはできないものの、その期間の定めは一応のものであって、単に期間が満了したという理由だけで雇止めになるものではなく、双方に特段の支障がない限り雇用契約が更新されることを前提として締結されたもので、しかも具体的な労働条件等の内容も長期間雇用が継続されることを前提として協議され、確定されてきたものであるから、右認定の諸事情のもとでは、その後に生じた事業上やむをえない理由により新たに余剰人員が発生してこれを削減する必要があるのに、その余剰人員を配置転換などによって企業内で吸収する余地がないなど、被告において従来の取扱を変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情が存しない限り、期間満了を理由として直ちに雇止めをすることは、信義則上からも許されないといわなければならない。

三  右に認定・説示のとおり、被告と原告らとの間で締結された本件雇用契約は、双方に支障がない限りその雇用期間満了後も契約が更新されることを当然の前提としていたものであるから、被告のした本件雇止めが有効なものであるか否かは、被告において従来の取扱いを変更して本件雇用契約を終了させてもやむを得ないと首肯するに足りる特段の事情が存するか否かによることとなるので、以下、この点を検討する。

1  (証拠略)の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  一一月二一日付け協定に基づく一〇名の希望退職者の募集については、組合側も協力してはいたが、未だ一〇名の目標が達成されていない時点で、雪印乳業から被告に対し、福岡工場でもパレタイザーを導入して乳製品の入庫作業を自動化し、更に作業に必要な人員を削減してコストダウンを図るとの方策が示された。このパレタイザーは、競争相手の森永乳業の工場では昭和四〇年頃から導入が開始され、雪印乳業でも昭和五一年頃から導入され始めたもので、福岡工場以外の主要工場では既に設置されているものであった。また、雪印乳業からは、この市乳冷蔵庫へのパレタイザー導入のほか、アイスクリーム冷蔵庫での作業環境の改善を図りながら作業効率を高めるため、冷蔵庫を入庫予備室・本庫・出荷予備室の三つに仕切って分離したいとの提案もなされた(ちなみに、入出庫作業が行われる冷蔵庫等の工場設備はもとより、ベルトコンベアーやフォークリフト等の主要な作業機材も雪印乳業が整えたものである。)。

これらの提案を受けた小川ら被告の幹部は、パレタイザーの導入や右各予備室の創設は、雪印乳業のコストダウンを図るためにやむを得ない措置であるばかりか、従業員の作業環境を改善し、作業内容を軽減するためにもやむを得ないものと判断し、組合及び原告ら従業員に図ることなく、昭和六二年三月頃には、雪印乳業に対して、これらの導入、改善を受け入れることを伝えた。なお、右一一月二一日付け協定による希望退職者の募集は、同年三月三一日までに合計一〇名の応募があり、その目標を達成した。

(二)  被告は、雪印乳業に対して右のパレタイザー導入や入出庫予備室の創設を承諾した後、同年四月二二日の団体交渉などで組合に対して右合理化による人員削減問題について説明し、同年五月八日には「申入書」と題する文書で「雪印乳業より、市乳冷蔵庫の機械化、アイスクリーム冷蔵庫の改造計画の申入れがありましたので合わせて協議願います。」「雪印乳業の機械化、改造に伴う人員削減を行う。(時期)昭和六二年一一月一日を目標、(削減人員)市乳冷蔵庫、アイスクリーム冷蔵庫一〇名、(対象者)長期臨時者」との申し入れを行った。

これに対して、組合側は、一一月二一日付け協定に基づいて実施された希望退職者(一〇名)の募集(以下「第一次の人員削減」ということがある。)がやっと達成されたばかりで、右協定では、「希望退職者が一〇名以上の場合は、第二次募集は行わない。」「希望退職者が一一名以上出た場合は、一〇名を超える人員について補充する。」とされているのに、さらに一〇名の長期臨時従業員全員を対象として雇止めを実施しようとするのは右協定に違反するとして、右合理化案の即時撤回を求めて被告及び雪印乳業に対し抗議をした。そして、昭和六二年六月一六日、七月一日、同月一五日、同月二一日と労使間で団体交渉が続けられたが、特段の進展はなく、組合は、八月七日に二時間の時限ストライキを行った。

(三)  その後、八月二七日、九月一六日と労使間で団体交渉が行われたが、双方の議論はかみ合わないままであったところ、同月一八日に至り、被告は、組合に対して、労働条件及び作業条件については、昭和六一年四月一日付け協定書、昭和六二年五月八日付け申入書、従業員就業規則、臨時従業員就業規則により定められたものとすること、昭和六二年一一月三〇日で雇用期間が満了する有期限雇用者の取扱いについては、会社案のとおり再契約を行わないことなどを通告した。これに対して、組合は、同年一〇月九日には五時間の時限ストライキを行う一方、一一月四日、同月一二日、同月二六日には被告と団体交渉を重ねて、一一月二六日には、被告に対し、「市乳冷蔵庫における人員は現行の四四名のうち四名の人員減は止むを得ないものと考える。休務要員の三名の人員減についても止むを得ないと考える。以上の二点から七名の人員減はやむを得ないものと考える。現在、アルバイトが一二名おり、この者達から順次整理していけばなんら長期臨時従業員の解雇を行う必要はない。」旨の考え方を示し、さらに一一月二八日には、一二月一日以降も原告ら臨時従業員をそのまま就労させるよう被告に対して申入れたが、被告は、結局、一一月三〇日の経過をもって本件雇止めを実施した。そのため、労使間の紛争は一層激化し、組合が小川宅周辺などで抗議行動を行ったりしたため、取引先や小川宅の近隣住民などから苦情が寄せられることもあった。

(四)  この間、雪印乳業は、一〇月一七日と同月三一日の二回に分けて、福岡工場の市乳冷蔵庫の六つの作業ラインのうちスラントラインと乳酸菌ラインを除く四つのラインにパレタイザーを導入した。従来、スラントラインと乳酸菌ラインを除く四つのラインに各二名ずつ合計八名の従業員が配置されて三〇分交代で作業(市乳冷蔵庫の庫内温度は摂氏四度位であり、その作業は低温下での作業である)に従事していたが、パレタイザーが導入された結果、右の四つのラインでの作業そのものは、パレタイザーの監視・操作等をする二名の従業員で足りることとなった。もっとも、交替要員の要否については労使間に争いがあり、被告はこれを不要として六名の余剰人員が生じたと主張し、組合は、三〇分交替を前提に、交替要員として他に二名が必要であるから、余剰人員は四名にすぎないと主張している。

また、アイスクリーム冷蔵庫での入出庫作業は、従前はすべてマイナス三〇度の冷蔵庫内で行われ、入庫作業に八名、出庫作業に四名、合計一二名の従業員が配置されていたが、原告ら臨時従業員に対する雇止めが実施された後の昭和六二年一二月末から翌年一月にかけて、雪印乳業は、アイスクリーム冷蔵庫内を改造して入庫予備室、本庫、出荷予備室の三つに仕切って分離した。そこで、昭和六三年二月以降、被告の請負っている入出庫作業は、マイナス五度からマイナス一五度の入庫・出荷予備室で行われるようになり、入庫作業については、コンベアーを集中して作業の効率化が図られた結果、交替要員を含めて六名で、出庫作業については、窓口を大型化してフォークリフトが使えるようになった結果二名で、それぞれ作業ができるようになり、結局、アイスクリーム冷蔵庫での作業のため、改造前は合計一二名の被告の従業員が配置されていたのに、改造後は合計八名の従業員で足りることとなったので、被告において四名の余剰人員が生ずることとなった。このように、雪印乳業による市乳冷蔵庫およびアイスクリーム冷蔵庫での一連の合理化により、被告の計算によれば一〇名分の、組合の計算によっても八名分の作業が減少した。

(五)  ところで、昭和六二年一月以降本件雇止めまでの間に原告らを含めた臨時従業員が担当していた作業とこれに従事していた数は、次のとおりである。

(1) 市乳冷蔵庫での作業、同年一月から五月まで臨時従業員は各一〇名、同年六月から一一月まで各九名。ちなみに、この間に市乳冷蔵庫に配置されたアルバイトは、同年六・七月が各二名、同年八月から一一月までが各三名である。

(2) アイスクリーム冷蔵庫での作業、同年一月から三月まで臨時従業員は各四名。四月以降は、希望退職者があったため、これに従事する臨時従業員はなくなった。ちなみに、この間にアイスクリーム冷蔵庫に配置された正社員は各月三名ずつ、アルバイトは、同年一月が二名、二・三月が各四名、四月から一〇月まで各一〇名、一一月が六名である。

(3) LL倉庫での作業、同年一月から一一月まで臨時従業員は各一名。ちなみに、この間のアルバイトは、一月から八月までが各二名、九月から一一月までが各一名である。

(六)  また、被告は、組合に対して一〇名の第二次人員削減を提案した昭和六二年五月から平成元年九月までの間に、福岡地区の求人情報誌に合計一三回にわたり「長期アルバイト募集」とか「アルバイト募集、長期勤務希望の方大歓迎」などの内容の求人広告を掲載してアルバイトを募集しているが、このうち、昭和六三年一二月までに雇用したアルバイトの総数は、次のとおりである(ただし、昭和六三年四月までは被告提出の(証拠略)により、同年五月からの分は被告からの資料の提出がないので組合の作成した(証拠略)による。)。

昭和六二年四月一七名、五月二四名、六月二二名、七月二六名、八月三二名、九月二〇名、一〇月一七名、一一月一二名、一二月一一名、同六三年一月一名(アイスクリーム冷蔵庫の工事のためアルバイトの雇用が少ない。)、二・三月各九名、四月一一名、五月一二名、六月一八名、七月二四名、八月二六名、九・一〇月各一九名、一一月一八名、一二月一六名。

したがって、本件雇止め前の昭和六二年一一月までの間は、最大三二名(八月)、最少一二名(一一月)であり、本件雇止め後一年間(ただし、例外的事情の存する一月を除く。)は、最大二六名(八月)、最少九名(二・三月)である。

これらのアルバイトの中には、一か月に数日しか来ない者や、夕方四時半すぎから勤務に就いている者も含まれているが、他方で、在職期間が二年七か月に及ぶ者が一名、一年以上に及ぶ者が九名も含まれている。もちろん、被告のように、アイスクリームのような季節的商品を扱う物流業者においては、冬の閑散期にはアルバイトを減らし、夏の繁忙期にはその程度に応じてアルバイトを補充して労働力を確保するという繁閑対応策を適切に実施していくことが必要であると思料されるが、アルバイトのすべてが季節的労働者というわけではなく、その中には、年間の多くの期間を被告で働いていた者もいたし、本件雇止めに先立って前記パレタイザーの導入等の合理化と対応するアルバイトの削減がされた事実はない。

(七)  被告の経営は、雪印乳業から支払われる委託料(作業料金)で成り立っているが、雪印乳業と被告との委託料は、作業内容や作業人数を考慮に入れた上、被告と雪印乳業との話合いで決定されることになっていて、実際には、被告の支出の状況に応じて雪印乳業から被告に対して柔軟に支払われるシステムになっているところ、被告代表者の供述によれば、前記パレタイザーの導入等により、雪印乳業から被告に支払われた昭和六三年の委託料は、削減すべき人員に相当する額が減額されたという(被告は、会社の経営状態を具体的に示す決算書等の経理資料については、平成元年五月一〇日付けの「原告らの決算書提出要請についての上申書」で、「本件雇止めは、右のごとく職場の削減によって発生したものであって、収入問題を理由として発生したものでない。したがって、本件において決算書を問題とする余地も全くない。」として、その提出を拒絶している。)。

(八)  被告は、昭和六三年七月になって、雪印乳業からLL倉庫とデザート庫の業務を新規に請負うこととなり、これによって合計五、六名分の作業が増加した。

ちなみに、被告から組合に対して第二次人員削減案が示された昭和六二年五月八日から本件雇止めが実施された同年一一月三〇日までの間に四名の正社員が退職し、その後、さらに、昭和六三年五月をもって正社員一名が退職している。

2  証人花原信好及び被告代表者は、被告が、昭和六二年一二月に本件雇止めを実施する前に、雪印乳業と代替職場の提供を求めて折衝したが、前年の四月過ぎに雪印乳業から示された空瓶などの検収業務などを組合が拒絶したことを理由に雪印乳業から断わられて、代替職場の確保ができなかったと供述するが、本件雇止めが実施された後の昭和六三年八月には、被告は雪印乳業からLL倉庫とデザート庫の業務を新たに請負い、五、六名分の作業を確保していることはすでに右1の(八)において認定したところであり、これらに照らして、右各供述はただちに採用することができない。

3  右に認定したところによれば、雪印乳業が昭和六二年一〇月に福岡工場市乳冷蔵庫の入庫ラインにパレタイザーを導入したことにより、被告の主張によれば六名、組合の主張によれば四名の余剰人員が生じ(なお、この二名の差は、それまで労使間で合意されていた三〇分交替制がパレタイザー導入後も当然に適用されるのかどうかによって左右されるものであるが、後述するように、この二名の差によって本件の結論が異なるわけではないから、ここでは、四ないし六名の余剰人員が生じたとして検討を進める。)、また、昭和六二年末から昭和六三年一月にかけて実施されたアイスクリーム冷蔵庫の改造工事等によって、同冷蔵庫で入出庫作業に従事すべき人員四名の削減が可能となったから、これらパレタイザーの導入、アイスクリーム冷蔵庫の改造工事等により、被告において合計八ないし一〇名の余剰人員が生じたことは明らかである。しかも、被告の経営は、雪印乳業福岡工場で乳製品の入出庫作業を請負い、これに対して支払われる委託料(作業料金)によって成り立っているもので、その作業を請負うために被告が積極的に設備投資をしているわけではなく、工場設備はもとより作業機材等もすべて雪印乳業が調達・整備しているものを使用して作業しているのであるから、雪印乳業によるパレタイザーの導入や施設の改造等について被告が反対することができるものでないことも明らかである。

しかしながら、雪印乳業において合理化を実施し、被告において人員削減の必要性があったからと言って、このことから直ちに原告ら臨時従業員一〇名全員を雇止めにすることが必要不可欠なものであるとか、本件雇止めをやむを得ないものとして肯認しうるに足りる特段の事情が存すると断定していいものではない。

そこで、被告が、原告らに対する本件雇止めは、右の市乳冷蔵庫での設備改善及びアイスクリーム冷蔵庫の改造等の合理化によって原告ら臨時従業員の職場がなくなったからであるとしている点を検討する。

第一に、アイスクリーム冷蔵庫の改造等によって生じた余剰人員は、右に認定のとおり四名である。しかしながら、原告ら一〇名の臨時従業員は、昭和六二年六月以降、市乳冷蔵庫に九名、LL倉庫に一名配置されていただけで、アイスクリーム冷蔵庫には全く配置されていなかったのであるから、そもそもアイスクリーム冷蔵庫の改造工事等によって原告ら臨時従業員の職場がなくなったということではない。この点に関し、被告代表者は、正社員の雇用を確保するために原告ら臨時従業員を雇止めにせざるを得なかったと述べているが、アイスクリーム冷蔵庫では、設備改造前には正社員が三名、アルバイトは六ないし一〇名が配置されていたところ、改造後も入庫作業に六名、出庫作業に二名、合計八名の作業員が必要であることは被告も自認するところであるから、改造後も、正社員三名はそのままアイスクリーム冷蔵庫での入出庫作業に従事させることができ、アルバイトの採用を適宜抑制することによって、アイスクリーム冷蔵庫の改造によって生じた余剰人員を無理なく削減することができるはずである。もっとも、営業コストという面では、正社員と臨時従業員とアルバイトとでは相応の違いが存するのが一般的であろうが、前記認定のように、雪印乳業から支払われる委託料は、作業に当る従業員の待遇(正社員か臨時従業員かアルバイトか)をも加味して支払われるシステムであるから、本件では、この点の考慮は本質的な問題ではないと考えられるし、実際、被告においても、「本件雇止めは、職場の削減によって発生したものであって、収入問題を理由として発生したものではない」(平成元年五月一〇日付け被告の上申書一の3)としているところである。しかも、本件については、被告が組合に対して、支障がない限り原告ら臨時従業員の本件雇用契約をその期間経過後も更新することを確認していたほか、雪印乳業も組合に対して、「雪印乳業福岡工場の業務に従事させている全従業員を責任をもって雇用させる」ことを誓約し、その後希望退職者一〇名の募集等経営改善問題について組合の同意を得た際、被告は組合に対し、希望を退職者が一〇名に達したときは再募集を行わず、一〇名を超えた場合は一〇名を超える人員分を補充すると約束していたなど前記認定のような特殊な経過があり、原告らにおいて契約更新に対して強い期待を抱いていたもので、このような期待は法的に保護されるべきものであるところ、右希望退職者による人員整理を行ったわずか六か月後に再び雇止めを行うというのであるから、このような場合、まず、アルバイトの採用を取り止めたり、できる限りアルバイトの採用を制限するなどして、大成商運時代から雇用されている正社員や原告ら臨時従業員に最も影響の少ない方法によるべきであるのに、アイスクリーム冷蔵庫の改造によって生じた余剰人員を削減するためにアイスクリーム冷蔵庫での作業に従事していない原告ら臨時従業員を雇止めにすることは、被告における人員削減の方法として相当なものとは言えない。

第二に、市乳冷蔵庫にパレタイザーを導入したことによって生じた余剰人員は、四ないし六名である。しかしながら、昭和六二年六月以降本件雇止めまでの間、市乳冷蔵庫には常時二ないし三名のアルバイトが配置されていたのであって、その雇用を保護すべき度合は、ある程度の長期雇用を前提としている原告ら臨時従業員らの方がアルバイトに優ることは明らかであるから、原告ら臨時従業員を雇止めにする前に、アルバイトの採用を取り止めるべきであり、そうすれば、削減すべき余剰人員は、わずか数名程度になるはずである。しかも、前述のとおり、アイスクリーム冷蔵庫での入出庫作業には設備改造後も八名が必要であるから、仮に、三名の正社員をそのまま配置したとしても五名分の作業が残っているはずであり、アイスクリーム冷蔵庫でのアルバイトの採用を減らして、そこに市乳冷蔵庫関係でアルバイトの採用を取り止めても吸収できずに残った数名の余剰人員を配置換えすれば、市乳冷蔵庫での作業合理化によって生じた四ないし六名程度の余剰人員は、すべて本件雇止めによらなくても社内で吸収することができたはずである。

この点で、被告は、アルバイトを雇用するのは、季節的な繁閑に柔軟に対応して経営効率を高めるためであるとか、ストライキに対応するためであるとか、欠勤や遅延防止のためであると主張しているが、アイスクリーム冷蔵庫の入出庫作業には、その作業工程上、設備改造後も通常は前記認定のとおり八名の人員が必要なのであって、右のような繁忙等の要員を加味した場合には、さらに多数の人員が必要になることはあっても、八名の必要人員が減少することはないと考えられるから、右主張は、最低でも、この作業に必要な人員八名からこれに設置されている正社員の数を控除した残りの数に満るまでは、市乳冷蔵庫で生じた余剰人員を吸収しようとすればできなかったわけではないとの前記判断を左右するものではない。

このことに加えて、本件では、被告は、第一次の人員削減が進行中に、雪印乳業との間で再度の人員削減を不可避的に伴うような合理化計画について合意し、これを組合及び原告らを含む従業員に秘匿したまま第一次の人員削減を達成した上、その直後に被告から組合に対して再度の人員削減が提案されたのであるが、この段階では、新たな人員削減が雪印乳業と被告との間で既定方針になっていて、被告の意向だけでこれを撤回する余地はなくなっていたのであるから、このような被告の行為は、被告と組合及び原告らを含む従業員との労使関係上の信頼関係を自ら破壊したものと判断されても致し方ない性質のものである。したがって、その後、本件雇止めの当否をめぐって労使間に激しい紛争が生じ、取引先や近隣住民などから被告や被告代表者に対して、組合の活動により迷惑を蒙っている旨の苦情が寄せられたり、これに関する原告ら組合員の抗議行動等によって被告の業務に一部支障が生じたことなども認められるが、それだからと言って組合や原告ら従業員の行為のみを非難することは妥当ではないし、これに対抗するためにアルバイトを雇用せざるを得なかったから、原告ら臨時従業員の職場を確保する余地がなかったなどというのも本末転倒の議論であって、採用することができない。もちろん、乳製品を取り扱う被告ら物流会社において、夏と冬とでは牛乳やアイスクリームなど乳製品の取扱量が大きく変動することは自明のことであり、このような季節的変動に対処するため、アルバイトを活用して適切な人員管理を図ることが必要であることは当然のことであるが、被告は、昭和六二年四月から同年一二月までの間に、最高三二名、最少一一名、月平均で二〇名のアルバイトを雇用しているのであって、常時一〇名以上のアルバイトを雇用するだけの作業が存したことは明らかである。

さらに言えば、本件では、本件雇止めがなされた原告ら一〇名の臨時従業員のうち、本件訴訟の原告となっていない猪野勝巳ら四名(うち三名は非組合員)は現に被告を退職しているのであるから、一〇名の臨時従業員全員を一挙に雇止めするということではなく、個別具体的に退職の可能性を打診するなどした上、一部の者についてだけ雇止めを実施するに止めて被告の職種拡大や事業改善の可能性等をみてみることも不可能ではなかったと思われる(現時点で救済を求めているのは原告ら六名だけであり、この程度の人員は、アルバイトの採用を調整しさえすれば、社内に吸収できないものではないことは、多言を要しない。)。しかも、被告は、このほかLL倉庫でも一名ないし二名のアルバイトを雇用しており、また、本件雇止めを実施した後の翌六三年七月以降は、雪印乳業からデザート庫での作業も請負うこととなり、これによって常時三ないし四名のアルバイトを新たに雇用しているのである(なお、被告は、このデザート庫の作業では雪印乳業からアルバイトを前提とした委託料しか支払われないので、臨時従業員を雇用することは困難だと主張しているが、これを認定するに足りる的確な証拠を提出していない。)。

そして、本件においては、前記二などで認定したとおり、大成商運から被告へ本件請負業務が移行されるについて、雪印乳業が指導的役割を果たしていることや雪印乳業自体も原告ら臨時従業員の雇用確保を組合と約束していたことなど前述した極めて特異な事情が存在したのであるから、このような経緯等にかんがみるならば、被告において、原告ら臨時従業員の雇用を確保するために雪印乳業と十分な協議を尽し、雇用継続に対する原告らの強い期待をできる限り実現することができるよう最善の努力がなされてしかるべきところ、本件では、被告と雪印乳業との間で、まず、合理化の実施が既定方針として決定されていて、右既定方針を実施するにきゅうきゅうとしていたといわざるを得ず、被告において原告ら臨時従業員のために右のような十分な対応をとったと評価することはできない。

4  以上検討してきた本件における一連の特殊な経緯、雇用の実態と人員削減の必要性、人員削減の時期及び方法、労使間の交渉過程等諸般の事情を総合的に検討すると、本件については、被告において従来の取扱方針を変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないといえるような特段の事情は存在しないと言うべきであるから、被告が本件雇用契約で形式的に定められている雇用期間が満了したことを理由として原告らに対し直ちに本件雇止めをしたことは、信義則上からも許されないものと言わなければならず、他に、本件雇用契約の更新を妨げるような事情は主張されておらず、そのような証拠もないので、原告らは、本件雇用契約が更新されたことにより被告の従業員としての地位を継続して有する者と認められる。

四  そこで、原告ら各人の受けるべき賃金額について判断するに、被告における賃金の支払が毎月末日締切りで翌月一〇日払であることは当事者間に争いがなく、また、(証拠略)によって認められる本件雇止め前三か月間(ただし、原告らが本件労使紛争により勤務日数が減少したと主張している昭和六二年一一月分を除く。)の原告ら各人の賃金額によって原告ら各人の一か月当たりの平均賃金額を算出すると、それぞれ別紙賃金目録記載の金額となる。

五  以上の次第で、原告らは、被告に対し、それぞれ昭和六二年一二月一日以降も被告の従業員としての地位を有し、右同日以降の賃金請求権として一か月当り別紙賃金目録記載の額の金員(ただし、その支払日は、昭和六三年一月以降毎月一〇日である。)の支払を求める権利を有することとなり、原告らの本訴各請求はいずれも理由があることとなるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堂薗守正 裁判官 須藤典明 裁判官 一木泰造)

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